SMCコラム

営業力強化の考え方と人事評価6(営業プロセス/深耕プロセス)

7.深耕プロセス

【営業プロセス4】既存顧客を深耕して、より多くの案件やシェアを得る「深耕プロセス」

深耕プロセスは「引合プロセス~商談プロセス~業務プロセス」という案件を受注・納品する一連のフローと「同時並行」で進めるプロセスです。
ただし「同時並行」とはいっても、実際には深耕プロセスが基盤となっており、その上に案件受注のプロセスが存在すると当社ではとらえています。

図表5.深耕プロセスの位置づけ

引合プロセス

商談プロセス

業務プロセス

深耕プロセス(基盤)

このように本来は深耕プロセスが基盤として第一義的に存在し、案件受注のプロセスはその後についてくるものです。しかし深耕プロセスが意識されているケースは少数で、上位役職者の表敬訪問や接待程度しか実施されていない現状があります。

実際には深耕プロセスは、営業シナリオ実現のための中核です。

会社としては、深耕プロセスを案件受注のためのプロセスと同等あるいはそれ以上に重要視すべきといえます。

ここで、3章で解説しました営業シナリオについて振り返ってみましょう。
営業シナリオとは、顧客ごとに次の内容を明らかにしたもので、営業部門の方針管理の中核になるものです。

3章と同様に、代表的な8項目を記します。

①顧客の求めるものや方針はどのようなものか
②顧客は自社をどのように評価しているのか
③顧客をどのように位置づけるか
④顧客と今後どのように関わっていくのか
⑤そのために、顧客とどのような接点を持つのか
⑥どの商品にどれだけの売上と利益を期待するのか
⑦そのためにどのような提案を行うのか
⑧どれだけの資源を投入するのか

上記8項目のうち、①~⑤の実現に向けて活動するのが深耕プロセスです。

当社が営業コンサルティングを実施する場合、この深耕プロセスを標準で5つの工程に分解し、工程ごとに実行すべき内容を設計して営業力強化をはかります。

深耕プロセスにおける営業活動のポイントは次の4つです。
1)顧客と3次元立体的な関係を構築する
2)会社が持つ力を100%、顧客に認知してもらう
3)顧客の方針を実現するため、どのような取り組みを行うかを明確にする
4)上記の取組み内容について、全社で計画を立てて実行する

1)顧客と3次元立体的な関係を構築する
深耕プロセスは顧客との関係を深めて従来よりも多くの案件を獲得し、顧客内シェアを高めていくための重要な過程です。こういった施策を個々の営業職員の対応に任せておくだけでは実現は困難です。
営業職員と顧客担当者間だけの小さな属人的な関係ではなく、「会社(顧客)」対「会社(御社)」の深い関係を構築し、顧客内における御社の位置づけを「信頼し相談できるパートナー」へと変えていく必要があります。
そのためには、「3次元立体的な関係の構築」が要求されます。

3次元立体的な関係の構築とは「少なくとも顧客の3部門との間で役員~部長~課長~担当同士の接点を持ち、それぞれの階層で人間関係を構築すること」です。

図表6.3次元立体的な関係構築(イメージ)

3次元立体的な関係構築

上記の人間関係を構築することで、次のような状況が実現します。
ア)顧客各部の方針をしっかり把握できて関係の基盤ができあがる
イ)顧客内での購買意思決定に関与する重要人物及び組織構造が明らかになる

なお、図表6のように「課長対課長」、「部長対部長」など、関係構築の相手方が御社と顧客とで同じ役職者となるのは「企業規模が同程度」の場合です。企業規模が異なる場合、異なる役職間で関係構築すべきケースがあります。

2)会社の持つ力を100%、顧客に認知してもらう
御社からの適切な情報提供がないと、顧客は日常の接点から独自に御社の力量についてイメージを形成します。しかし顧客が独自に抱いたイメージは、例外なく御社の本来の力量より矮小化されたものとなるので注意が必要です。

例えば御社がA、B、Cという商品群を保有していて、AとB商品群を商売の中心としている場合、顧客はC商品群については認知していません。正しい理解のためには継続的にCについても認知してもらうための活動を行う必要があります。

身近な例を出してご説明します。(B to B(B2B)からはいったん外れることをご容赦ください。)

株式会社DHCは、今や化粧品、健康食品やサプリメントの超一流企業です。品質にこだわった本物の商品を製造・販売しており、筆者も健康食品やサプリメントはすべてDHCの商品を愛用しています。
筆者がDHCを初めて利用したのは20年以上も前、部品メーカー在籍中に、電子部品の特長の英訳(技術翻訳)を依頼したときでした。
実はDHCは翻訳事業からスタートした会社なのです。DHCの翻訳事業は、現在も文化事業部という部門で実施されています(2016年4月現在、株式会社DHC ホームページにて確認)。
皆様はDHCについて「翻訳事業」のイメージがありましたでしょうか?
おそらくなかった方が多いと思います。このように、ある事業(商品)についての強い印象を持っている場合、その他の事業(商品)はなかなか認知されないものです。

当社も例外ではありません。
例えば、人事コンサルティングのお客様からは「ストリームさんは営業コンサルティングもやってたの?」と言われます。一方で、営業コンサルティングのお客様からは「ストリームさんは人事コンサルティングもやってたの?」と言われます。
当然ですが、提案段階で当社の5大コンサルティングプログラムはすべてご説明しています。ただ普段接しているのが1つのプログラムなので、他を認知しにくくなっているのです。
このように、お客様に自社の持つ力を100%認知していただくことの困難さは、当社自身も身にしみて感じております。

これらの例から言えるのは「顧客は自社の100%の力量を知らない」という前提に立つべきということです。そうすれば、必然的に適切な情報提供によって自社の活動を顧客に認知してもらおうとするでしょう。
上記で紹介したすべての階層(担当者や課長、部長、役員など)の接点において情報提供活動が必要ですが、特に役員同士の関係構築において、相手に自社の力量を知ってもらうことが重要です。

3)顧客の方針を実現するため、どのような取り組みを行うかを明確にする
これは、営業シナリオの①③④そのものです。
営業シナリオ① 顧客の求めるものや方針はどのようなものか
営業シナリオ③ 顧客をどのように位置づけるか
営業シナリオ④ 顧客と今後どのように関わっていくのか

ポイントは、顧客に自社の力量を100%認知してもらい、顧客の目的や方針の実現のために自社が価値提供できる領域を増やすことです。

そのためには、「顧客の役員~課長クラス」と「御社の役員~課長クラス」が一堂に集まり、顧客の方針を確認、共有する機会が必要です。そこで御社の力量によって実現できる取組みや提案を顧客に対して説得的に伝えます。この会合を当社では「方針共有検討会」と呼んでいます。
こういった会合を重ねて顧客の方針を正確に把握し、それを営業シナリオに反映してシナリオに沿った営業活動を組織的に実行していけば、自ずと営業レベルが高まるのです。

4)上記の取組み内容について、全社で計画を立てて実行する
これは、営業シナリオの⑤に関係します。
営業シナリオ⑤ そのために、顧客とどのような接点を持つのか

接点の基本は「訪問」ですから、まずは階層別・部門別に顧客への訪問計画を立てます。
このとき、それぞれの訪問目的を明確にすることが重要です。誰が何のために何回行くべきか、個別に検討してください。
また役員や部長クラスの場合、表敬訪問ではなく顧客の方針確認を主目的としますので、タイミングは顧客の方針変化の時期に合わせる必要があります。
担当者については深耕プロセスのみならず、引合プロセス、商談プロセス、業務プロセスにおける案件受注のために別途訪問する必要もあります。深耕プロセスでの訪問計画にも担当者を組み入れるかは、その案件における訪問の頻度と関係するので、ケースバイケースで計画することになります。

【深耕プロセスの人事評価項目事例】
深耕プロセスにおける人事評価項目の評価指標は、会社の営業活動スタイルによって異なりますので、参考例を記載します。

方針を共有できる顧客については「顧客別関係構築率」
自社の力量を正確に顧客に認識してもらう「自社力量認識率」
最新の顧客方針を把握するための「方針共有検討会開催率」
顧客別の営業シナリオを担当者が策定できたかを確認する「営業シナリオ策定の自己完結率」
深耕プロセスの訪問の達成度について「階層別・部門別訪問計画達成率」

初めてご覧になる人事評価項目もあるかもしれませんが、営業力強化を実現するには、他のプロセスと同様にこういった具体的な指標を作り、会社としてマネジメントしていく必要があります。営業力強化を目指すなら、役員を含めた全社的な営業活動の質の改善が求められるのです。

※上記の指標はあくまでも例示です。御社の深耕プロセスの核となる行動を指標化して、営業の人事評価項目に設定してください。

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